朝から起きた出来事を考えていると、自然にため息が出た。 頭がズキズキと痛むのは二日酔いのせいだけではない。 昨晩のことは…思い出したくはない。
そうしているうちに町の人々の雰囲気がいつもと違ってよそよそしいことに気づいた。 いつもは気軽に話しかけてくれるパン屋の主人も様子が変だった。パン屋だけでなく町全体が距離を置いているように感じる。「いったい、何があったんだろう?どうしたのか?、アレンには理解ができないまま学校に着いた。
教室に入ると
「おい!アレン、昨日の夜、一体どこで何してた?」ロブとサンが怒鳴りながら近づいてきた。「マリアさんとキリアさんと一緒に朝まで何していたんだよ!」「勇者の肩書を使っていいことしてたんだろ?」「なにが勇者になりたくないだ。結局勇者の名前使っていいことしてるんじゃん!」
「お前最低だな!みんなのアイドル二人といいことしやがって!」
アレンは頭が真っ白になった。「勘違いだ!」
その時アレンは勇者としてみんなに見られる事の重大さに初めて気付いた。勇者になりたくないと自分では思っていても、周りはそれを許してくれていない事に・・・。
勇者の自分に自由はなく、普通の15歳の学生であることは許されない存在になってしまった。
「もう、戻れないのか・・・勇者になることを受け入れなけらばならないのか?」考えれば考えるほど空しく自然と涙がこぼれた。
「これからは自分を押し殺して勇者として振舞わなければならないのか・・・友達とバカなこともできないのか。」「いや、友達さえもいないのかもしれない。」
自分が望んだのではなく、たまたま神に選ばれただけなのに。
そして周囲の大人たちは金儲けや町おこしのために「勇者」という存在をただ求めている。自分の気持ちは誰も聞いてくれない。
「俺って…道具なんだな」
アレンは深いため息をついた。自分がどうすればいいのか、どんな道を選ぶべきなのかはまだわからないが、ただただ怒りが込み上げてきた。
「勇者なんかしるか!おれは自由に生きてやる!」
その時、アレンの脳裏に一冊の絵本が浮かんだ。
それは昔から愛され続けてきた絵本、「たいせつなこと」
絵本紹介
「たいせつなこと」は、マーガレット・ワイズ・ブラウンが書いたシンプルな絵本です。この本は、考えないものたちに宿る「たいせつなこと」を語りかけるように描かれています。
この絵本を手に取ったアレンは、読み進めながら、「勇者としての役割」ではなく「自分としての存在」にとって本当に大切なことは何かを考え始めます。
何かを求められる役割や周りからの期待を越えて、自分が心から納得できる「たいせつなこと」は何か。 それを問いかけるきっかけとなるこの本は、アレンにとって自分自身を見つめ直すための小さな道しるべとなるのでした。
「たいせつなこと」を胸に抱き、アレンは前を向いた。
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