アレンはマリアとキリアに詳しい経緯の説明を聞きたかった。彼は心の中で葛藤しながら、どうにかしてこの状況をうまく収めたいと思っていたが、彼女たちの反応を見て、さらに困惑が深まるのを感じた。
「えっと、まず最初に言いたいのは…」アレンは言葉を選びながら話し始めた。「昨晩、酒場でみんなに飲まされて、僕が酔っ払っていたことは間違いない。だけど、全く覚えていないことが多いんだ。だから、何が起きたのか、よくわからなくて…」
マリアとキリアはニヤニヤとした表情でアレンを見つめ、彼の言葉を待っている。キリアが口を挟んできた。「あら、アレン。心配しないで。残念ながらあなたの大事な物はいただいてないから!ただ、みんなで楽しく酔っぱらってただけよ!」
アレンはその言葉に驚いた。「え、じゃあ…本当に何もなかったの?」彼は少しほっとしたが、同時に不安が残った。酒場での記憶が薄れていく中で、何が起こったのかを知りたい気持ちもあった。
「まあね、そういうことよ!」マリアは笑いながら言った。「私たちはお酒を飲んで、楽しい時間を過ごしたの。アレンも酔っ払ってて3人でフラフラ歩いて次の店に行こうとしてたの。そしたら宿の前でアレンが寝ちゃって・・・気づいたイリアが心配してくれて泊めてくれたの。1部屋しか空いてなくて、それでみんなで寝ることになったんだけど・・・特別なことは何もしてないから心配しないでね!」
「でも、私はアレンのが本当は欲しかったけど、我慢したわ!」キリアが笑いながら言うと、マリアもそれに続いた。「そうそう、アレンは勇者だから、他の人に先に特権を使われるくらいなら先に特権をもらっちゃおぅ!なんて思ったけど、あっちも酔っぱらいモードだったし今回は本当に何もなかったのよ!」
アレンは顔を真っ赤にして、思わず目をそらした。「いや、本当にその話はやめてくれ!」彼は内心で恥ずかしさに耐えながら、二人の軽口に困惑するしかなかった。
その時、イリアが話に興味深々で入ってきた。「それ、すごく面白い話ね!私もアレンのあっちがどんな酔っぱらいだったのか気になるなぁ。もし勇者の特権があるなら、私も欲しいな!」彼女は目を輝かせて言った。
アレンはその言葉に驚きつつも、少しだけ心の中で混乱が広がった。「いや、イリア、それはちょっと…」彼は言いかけたが、言葉が出てこない。彼は自分が勇者であることがこんな形で話題になるとは思ってもみなかったのだ。
「だって、アレンが勇者なんだから特権があって当然でしょ?」イリアはニヤニヤしながら言った。「私たちもその特権を利用して楽しめるなら、悪くないと思うわ!」
「でも、それって罰ゲームみたいじゃない?」アレンは何とか冷静を保とうとしたが、言葉には力がなかった。彼はこの状況がどうにも理解できず、心の中で葛藤していた。
マリアとキリアはまた笑い出し、「あら、アレン、そんなことを気にしないで!勇者の特権を楽しむのは、誰にとっても良いことじゃない?みんなが楽しくなるなら、別に問題ないじゃないの!」と口を揃えた。
アレンは頭を抱えたくなった。自分が勇者に選ばれたことで、こんな風に周りの人たちに思われているのかと思うと、居心地の悪さが増していく。勇者という役割に押しつぶされそうな感覚が、彼を襲った。
「そんなこと言われても…俺には何も特権なんてないよ!」彼は必死に抗った。「ただの普通の15歳の男の子なんだから!」
イリアはアレンの反応を見て、少し考え込んだ。「でも、アレンは勇者なんだから、特権を持っていてもおかしくないと思うよ。周りの期待に応えようとするのも大事だけど、自分がどうしたいかも考えた方がいいんじゃないかな?」
その言葉に、アレンは何かを感じ取った。確かに、彼が勇者になったのは運命のようなものだ。しかし、彼が本当にしたいことは何なのか、自分自身に問いかける必要があることに気づいた。
その時、アレンはふとある絵本のことを思い出した。自分の気持ちを整理するために、この本を読んでみたいと感じたのだ。
『ぼくのかけら』 by みき しん
この絵本は、主人公が自分自身を見つめ直す旅を描いている。主人公は、周りの期待やプレッシャーに押しつぶされそうになりながらも、自分の心の声に耳を傾けていく。そして、自分の大切にしたいものを見つけ出す過程が温かく描かれている。
アレンは、この本を手に取ることに決めた。自分が勇者として何をすべきなのか、自分の気持ちを整理するために必要な一歩を踏み出そうと思った。周りの期待に流されるのではなく、自分自身を大切にすることが本当に大事だということを理解するために。
「この本を読んでみよう。」アレンは心に決めた。今の自分がどうあるべきかを考え、勇者という役割を果たすためには、まず自分自身を理解しなければならないと強く感じたのだ。
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