酒場に着くと、アレンは父の姿を探したが、そこには彼の影はなかった。代わりに、酒場の美人で男勝りの女主人マリアと、いつもからかってくる女従業員のキリアがいた。二人は酒場の中でも一際目を引く存在で、アレンはドキドキしながら彼女たちに近づいた。
「おやおや、勇者様が来たわよ!」とマリアが笑いかけてきた。その声にはいつも通りの色気があり、アレンの心臓がドキッとした。キリアも負けじと続ける。「ほらほら、そんな顔してどうしたの? 勇者が父親を迎えに来るなんて、ずいぶん可愛いじゃない!」
二人は寄って来て、アレンの肩に手を置いたり、体を抱き寄せたりした。彼女たちの酔った色気にアレンは動揺を隠せなかった。彼はまだ15歳で、女性に対して戸惑いを覚えていた。自分が勇者だということで、周りの大人たちの反応が変わってしまうことに、彼は少し気をもんでいた。
「どうせ、アレンのことも勇者としてしか見てないんだろうな」と、内心で思った。彼の心には、まだ子供の純粋な部分が残っていた。しかし、マリアとキリアの視線はそんな彼を無視して、明らかに大人の視点で彼を見ているようだった。
「ほら、こっちに来なさい。お酒飲まないと、勇者としての資格がないわよ!」とマリアが笑う。アレンはその言葉にドキリとしたが、彼女たちの期待に応えることができる気がしなかった。
キリアがアレンに抱きついてきた。「ねえ、あなたが勇者になるって、みんなが羨ましがってるわよ! でも、本当に勇者になれるの?」その言葉には挑発的な意味合いが含まれていた。彼女は自分が求める勇気や強さが、本当はどういうものかを知っているかのようだった。
「もしかして、みんなが求める勇者像とは、こんな感じなのか?」アレンは思った。周りが期待する勇者としての自分と、実際の自分とのギャップがどんどん広がっているように感じた。マリアとキリアの笑顔の裏には、彼が持つべき力や責任を理解している様子があった。
その瞬間、アレンは心の中で葛藤を抱えた。彼はただの少年であり、まだ何もできない勇者であった。果たして自分が本当に勇者になれるのか、周りの期待に応えられるのか不安だった。
酒場の温かい雰囲気の中で、マリアとキリアが絡む様子を見ながら、アレンは自分の立ち位置を考えた。彼女たちの目は彼を「勇者」として見ているが、その実、自分はただの少年であると痛感した。周りの人たちが求める強さや責任は、まだ彼には重すぎるものだった。
その時、アレンは一冊の絵本を思い出した。それは、彼が子供のころに大好きだった物語だった。この絵本は、勇者がどのように成長していくのか、そして本当の強さとは何かを教えてくれるものであった。
『しろいうさぎとくろいうさぎ』 by ガース・ウィリアムズ
この絵本は、しろいうさぎとくろいうさぎが友情を育み、共に成長していく物語である。彼らはお互いを思いやり、助け合いながら、時には困難にも立ち向かう。物語の中で、真の勇気とは、自分の弱さを認め、仲間と共に成長していくことであることが示されている。
アレンは、この絵本が自分に何を教えてくれるのかを考えた。自分が勇者としてどう成長し、周りの期待に応えられるかを思うと、不安が募るが、同時にこの物語のように仲間と共に成長していくことができるかもしれないと思った。
彼は、マリアやキリアのように勇者としての期待を受けながら、自分を見失わないように努力しようと決心した。自分の心の中にある勇気や友情を信じて進んでいこうと、彼は静かに思ったのだった。
コメント