アレンは、となりの美人でスタイル抜群のお姉さんシルクに相談してみたが、期待していた答えは得られず、結局役に立たなかった。誰に相談するのが良いのか考えながら朝を迎えた。学校で担任のアン先生に相談してみようかと悩んでいたが、すでに友人のロブとサンが学校中に「アレンが勇者に選ばれた!」と大げさに言いふらしており、周囲の視線が怖かった。
普段なら見向きもされないアレンだが、クラスメイトの みんなが「すごいね!」「勇者って本当にかっこいい!」と囲んで褒めてくれるので少し勘違いの自信が芽生え始めていた。高揚する自分に酔っていた。本当に気持ちが良かった。特に、可愛い女の子たちの注目を呼ぶことが、「俺、モテモテじゃん!」「勇者いいかも!」
しかし、その浮かれた気分が一瞬で吹き飛んだのは、担任の女教師アン先生が「おめでとう」と言った瞬間だった。 アレンはその笑顔に何かが隠されているような気がして、背筋に冷たいものが走った。 アン先生の声が穏やかであるにもかかわらず、アレンは妙な不安を感じたのだ。
そして、授業が終わるころ、先生が低い声で「学校が終わったら教室に残って」と囁かれてきた。 アレンは嫌な予感に包まれたが、拒否むこともできず、その場で従わざるをえなかった。
放課後、教室で二人になった。 重い沈黙が流れる中、先生の目をまっすぐに見るのが、アレンはどうしても怖かった。 何か重大なことを言われるのではないかと心の中で思いながら、手汗をかいていた。
「アレン」とアン先生が話し始めた。 「あなたが勇者に選ばれたってことは、今後はバラ色の未来が待っているのよね?」
「先生をお嫁さんにしない?」
「・・・は???なんて言った?」
「変な呪文をかけられた? 毒にかかった? 急に気分が悪くなったぞ? めまいもしてきた?」
「えーと確か 先生は65歳じゃなかったっけ? 今年定年? 来年再雇用?」
「う~ん 俺、15歳・・・学生だよね」
「だっけ・・・ それはないわ!」
アレンは何も答えられなかった。 先生は少しため息をついて、静かに机の上に一冊の本を置いた。 そして、アレンにそれを差し出した。
「これを読んでみて!」と、そっとその本を渡した。
『はじめてのおつかい』 by 筒井頼子 / 林明子
この絵本は、幼い女の子が初めて一人でおつかいを頼まれ、その道中で様々な試練と不安に陥る様子を描いている。 最初は戸惑い、恐怖を感じながらも、次第に勇気を持って自分の道を進んでいく姿が、心温まる形で描かれている。
「初めてのおつかい?」と心の中で呟いていたが、何かを感じずにはいられなかった。
先生が渡してくれたこの本は「勇者」という役割を与えられたアレンが、その過程で感じる不安や恐怖、そして成長することの大切さが、今後のアレンに必要なものなのかもしれないと思って渡してくれた本なのか・・・
「あなたも、この子のように、一歩先に進んでいくことが大切なのよ。基本的に、すべてがすぐにできるわけじゃないの」「だから、これからは私と・・・」とアン先生が静かに耳元で囁いた。
アレンはその言葉に何とも言えない切なさと恐怖を感じながら、本を置いて教室を後にした。
「大人とは・・・」アレンは勇者に選ばれた事より大きな不安を抱えて学校を出た。」
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