神様に「今から勇者!って言われたけどどう思う?」って友達に言ってみた

「あれん!今からお前は勇者だ!」という神様の声が突然響いたその日、俺は完全に困惑していた。

――なんで俺が勇者なんだよ?

そんな疑問とともに、すぐに思い浮かんだのは、俺の長年の友人ロブとサンの顔だった。二人はいつだって俺のことを笑い飛ばしてきたし、今回もきっと同じだろう。少なくとも、この頭の中に沸き起こる理不尽な状況を、少しでも笑い話にして整理したかった。

すぐに二人に会いに行った。

「なあ、聞いてくれよ。神様にさ、急に『お前は勇者だ!』って言われたんだ」俺はそう切り出した。

すると、案の定、ロブとサンは目を丸くして、次の瞬間には顔を見合わせて大爆笑し始めた。

「お前が勇者!?それはねえだろ!」ロブは腹を抱えて笑っている。

「ははは、やめとけよ、あれん。お前が勇者って……いや、冗談だろ?」サンも笑いをこらえながら言った。

俺も最初は何とか真面目に話そうとしたんだけど、二人の反応を見て、さすがに耐えきれず「そりゃそうだ!」と一緒に笑ってしまった。勇者なんて、俺には到底似合わないし、実際のところそんな役割を果たせるような能力なんて一つもない。

「いやいや、ほんとにそうだよな。俺が勇者なんて無理だっての。だって戦うのも苦手だし、魔法だって使えないし……ただの普通のやつが、いきなり世界を救うなんて話にならないだろ?」

「だよなー」とロブはうなずきながら、「俺たちの中で一番勇者から遠いのはお前だしな」

サンも笑いながら、「お前、剣なんか振り回したらすぐ転びそうだしな!魔王が現れたらまず泣きそうだし」とからかってきた。

「それ!絶対そうなる!」俺もつい笑ってしまった。正直、二人の言うことは全部その通りだ。俺は間違いなく勇者なんて柄じゃない。ロブやサンの方がまだマシだろう。俺は、心の中で神様のことを再び恨んだ。

「で、どうするんだ?」とロブが真面目な顔で聞いてきた。

「やめとくよ。やりたくないって言ってるんだけど、神様がなぜか聞いてくれなくてさ。どうにかして断りたいんだけど、そもそも神様に逆らえるものなのかもわかんないんだよな……」

そう言うと、ロブとサンは少しだけ顔を見合わせた後、何か思いついたように、にやりと笑った。そして、二人同時に何かをカバンから取り出し、俺の前に差し出してきた。

「なあ、あれん。これ読んでから考えろよ」

「……絵本?」俺は驚いて二人の手元を見る。

「そうだよ。この絵本を読めば、お前も少しは勇者としてやってみようって気になるかも知れねえぞ」とロブが真剣な顔で言い、サンもにやっと笑った。

「たまにはこういうのもいいだろ?お前にはちょうどいいと思うぜ」

そう言われ、俺は差し出された絵本を受け取った。タイトルを見ると、こう書かれていた――


『ぐりとぐら』 中川李枝子

この絵本は、野ねずみのぐりとぐらが冒険に出る物語。二人はいつも一緒に、楽しいことやちょっとしたチャレンジを見つける。それでも、どんな困難があっても、二人で力を合わせて楽しみながら乗り越えていく。勇者なんて大げさな言葉が出てくる話ではないけど、この絵本を読んでいると「何かに挑戦すること」って、必ずしも恐怖や重責だけじゃないんだって思わせてくれる。ほんの少しの楽しさや仲間との協力があれば、どんな冒険も乗り越えられるかもしれない。

ロブとサンは、きっとそんなメッセージを込めてこの本を渡してきたんだろう。

「……まあ、考え直してみるか」と俺は、二人の笑顔に釣られて絵本を抱きしめた。


ロブとサンが差し出してきたのは、 『ぐりとぐら』。勇者だなんて大層な役割を与えられて困惑している俺に、「挑戦することも、誰かと一緒ならちょっと楽しいかもしれないぞ」というメッセージを込めて勧めてくれた一冊だった。

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